公立保育所廃止・民営化についての日本共産党市会議員団の反対討論

06年3月23日〜あじち洋子議員

 議案第10号茨木市立保育所条例の一部改正即ち三島・中条保育所の廃止・民営化について、日本共産党市会議員団を代表して反対の立場から、また後ほど採決が行われます公立保育所民営化を危惧する請願3件について採択すべきという立場から討論を行います。

 三島・中条保育所の廃止・民営化に反対する第一の理由は、茨木市がこれまで言ってきた公立保育所を廃止民営化をすすめる目的について、その根拠が全くないと言うことがあらためて明らかになったからであります。茨木市は公立保育所廃止・民営化の一番の目的について、「公立保育所運営費の市負担額を解消するため」と一貫して説明し、具体的には「8カ所の公立保育所を民営化すると年間7億円の市負担額が減少する」と説明してきました。これに対し、党市会議員団は「公立保育所正職員保育士は民営化により退職するわけでないので、全く根拠がない」と追及し、やっと市は答弁で「公立保育所正職員保育士の人件費の市負担額は民営化により減らない」ということを認めました。市が常任委員会で示した数字から換算すると、減少するという市負担額年間約7億円の内訳は正職員人件費で5億円、臨時職員人件費で1億2千万円、光熱水費など管理費で8千万円です。しかしこのうち正職員人件費の5億円は減らないことがはっきりしたわけで、実際に減るのは約2億円。粉飾は児童福祉課職員の人件費だけではありませんでした。一方公立保育所8カ所民営化により私立保育園の市補助金はどの程度の増額になるのでしょうか。また市の説明では、「私立保育園への市負担額は8カ所民営化により年間1億1千万円の増額となる」ということでした。これに土地の無償貸し付けと建物等の無償譲渡も含めて計算すると年間約2億4千万円の増になります。この金額から公立保育所市負担額の約2億円の減を差し引くと保育所全体の市負担額は減るどころか約4千万円増えることがはっきりしました。
 さらに公立保育所運営費国府負担金が一般財源化された中、茨木市が地方交付税不交付団体となって、19年度以降年間4千4百万円程度の影響を受け、民営化を延期すれば延期するほど茨木市は財政的な損害を受けるとの議論もありました。しかしこの解釈も間違っています。市は代表質問の答弁でも「市税収入の増収が見込まれる事から18年度は不交付団体になる」と言っているように、不交付団体になったからと言って、財政上の実害は基本的にはありません。即ち基準財政収入額が基準財政需要額を上回ると不交付、収入額が需要額を下回ると交付になるのが地方交付税制度の仕組みです。ちなみに茨木市では18年度の地方交付税は17年度に比べて約3億8千万円減収になりますが、市税ではそれを大きく上回る6億6千万円も増収になります。また基準財政需要額積算では保育所児童一人あたりの単位費用は公立は約50万円、私立は14万円と3.5倍の開きがあり、120名定員公立保育所1カ所民営化すると茨木市では4300万円も基準財政需要額積算でマイナスになります。このように公立保育所の民営化は茨木市の財政上からも百害あって一利もありません。

 反対する第二の理由は市の民営化の進め方が20年に一回という大問題であり、また「あり方懇」の意見書全会一致の「一部民営化については時間を掛けて慎重に」という付帯決議があるにもかかわらず、それを踏みにじる暴挙を強行したからであります。
特に問題なのは「一部民営化については時間を掛けて慎重に」という付帯決議を無視したことです。「あり方懇」には民営化に賛成の人、中立の人、反対の人と様々な意見の人が参加していましたが、それらの人達が立場の違いを保留して一致してまとめたのが「時間を掛けて慎重に」という9文字です。市長はこの最大公約数さえ、踏みにじったわけです。弁解の余地はありません。さらに問題は公立保育所民営化基本方針案を「パブリックコメント」に付さなかったことです。市は、「あり方懇」で十分意見を聞いたので、パブリックコメントに付す必要はないとのことでした。しかし市民全体の最大公約数の声を聞いたことは、この件では一度もありませんでした。また「ゴミ減量化」や「介護保険」に関する懇談会も市民各層の代表によって構成されていたにもかかわらず、市はパブリックコメントを実施しました。したがって本件で実施しなかったのは、説明がつきません。茨木市パブリックコメント実施要綱にはこの制度の目的として、「政策等の意思形成過程への市民等の参加の促進も図り、もって開かれた市政の推進に資することを目的とする」とあります。したがって今回のやり方は、パブリックコメント制度そのものをじゅうりんするものとあらためて指摘するものです。また民営化に関する「公保育所保護者への緊急アンケート」結果は「公立保育所民営化の賛否」の問いに対して「意見無視なら反対」―59%、民営化反対−24%合わせて83%と圧倒的多数の人が現状では「民営化に反対」と表明しています。これら保護者の意見を茨木市はどのように受け止められるでしょうか。また「在宅」と「保育所」の子ども同士を対立させるやり方も、「全く道理がない」と指摘するものです。

 反対する第三の理由は公立保育所を民営化しても、保育水準は低下しないという市の説明に根拠がないということが明らかになったからであります。
野村市長は民営化の理由について「公立は保育士が終身雇用で配置転換が困難なため人件費が高くなる。しかし私立は短期雇用で、いつでも若い保育士を中心に、安い人件費で運営できる。しかも保育サービスの水準は変わらない」と率直に語っています。このように「公立保育所の民営化」とは、その費用の大半を占める人件費を削減することです。つまり日々の保育を担う保育士や調理員等の人件費を削ること、これが民営化の目的で、究極的には正規職員を臨時職員。パートアルバイト等、非正規職員に切り替える事です。公立保育所で働く保育士は公務員で給与も雇用も、安定的・継続的に保障されています。しかし私立保育園はそうではありません。私立では、勤続年数が比較的短く、給与も公務員に比較して低位です。ここに公立と私立の保育士の人件費に大きな差が生まれているわけです。しかしこのように「保育士の人件費を切り下げても、果たして保育条件や保育内容に悪影響は出ないのか」この素朴な疑問に茨木市は答えていません。ご存じのように茨木市では公立・私立が協調し、また競い合いながら保育の質を高める努力を今日まで行ってきました。しかし茨木市の保育行政をリードしてきたのは間違いなく公立です。これに公私間格差の是正と言うことで、私立をレベルアップさせてきたのが茨木市の保育行政の歴史です。公立私立の比率が今年の6月で18対18、将来の茨木市では公私の比率は5対31となります。その時は主として私立保育園間の競争です。そうなれば激しいコスト競争がおこり、ますます人件費の削減が進みます。そうなれば必ず茨木の保育行政全体は後退する方向に動くと考えます。
また具体の問題でも、公私間の格差は存在します。例えば給食材料費や給食の方法についてです。茨木市の公立保育所の給食材料費は乳児が1食単価375円、幼児は同じく275円など、16年度年間合計予算額は2億2千5百万円となっています。これを児童一人あたりに換算すると月額約9200円です。一方私立保育園は児童一人あたり平均月額約5500円と公立と相当な開きがあります。また私立保育園間でも最高と最低では2倍以上の開きもあり、中には外部に委託をしているところもあります。また民営化は保育所施設の耐震診断や耐震補強工事でも公私の新たな格差を作ることとなります。耐震改修促進法の一部改正で、保育所もその対象となりました。公立保育所の場合は18のうち対象は12カ所です。最初に廃止・民営化する中条保育所の建設年次は74年、三島保育所は79年といずれも対象施設です。情報公開で入手した民営化予定の8保育所の構造計算書による専門家の分析では、中条保育所はIs(アイエス)値が0.4程度の可能性があり、それが事実であれば震度6程度で倒壊するおそれがあります。問題は民営化施設を引き継いだ財政基盤の脆弱な社会福祉法人が耐震診断も補強工事も実施する可能性は極めて低いと思われる事です。ここでも新たな公私間格差が生ずる可能性があります。
さらに私立保育園が大阪府に提出している「保育所調書」には、その運営実態について詳細な記述があります。これを見ると市の言っているように、公私立とも「施設最低基準」を満たしているので、基本的に公私間格差がないという説明は根拠がないことが歴然とします。
最後に公立保育所の「民営化」とは「保育はすべて民間にまかせ、なるべく規制をなくして、自由な競争にゆだねる、そしてその経費は国や市の負担は減らし保護者に負担させる」という事です。まさしく「官から民へ」「規制緩和」「小さな政府」を進める小泉構造改革の子ども版です。

 以上3点、公立保育所の廃止民営化、本議案では中条・三島保育所の廃止・民営化について断固反対する立場からの討論といたします。議員各位の賛同をよろしくお願い申し上げます。