非常勤公務員労働者の権利闘争に画期的な判決
茨木市の公立保育所(18箇所)には184名の臨時職員と234名のパート職員が働き、保育行政の重要な一端を担っています(2005年10月現在)。ところが茨木市は公立保育所民営化により、来年の三島・中条保育所では24名の臨時職員と29名のパート職員を雇い止めしようとしています。さらに廃止・民営化による正職員34名の異動先保育所でも、同様の事が起ころうとしています。また8箇所の民営化で半数以上の臨時職員も同様な措置が予想されます。したがって民営化による影響は保護者や子どもたちだけではありません。そこで最近、非常勤公務員労働者にとって、画期的な判決がありましたので、判決文の要旨と弁護団の声明をご紹介します。このニュースはNHKの「生活ほっとモーニング」の番組でも取り上げられ、反響を呼んでいます。力をあわせて、茨木市でも非常勤公務員女性労働者の権利と暮らしを守りましょう。
2006年3月24日 平成16年(ワ)第5713号地位確認等請求事件 |
東京地方裁判所民事第36部 裁判官 山口 均
判決主文
1 原告○○と被告□□との間で、原告が被告に対して労働契約上の地位を有することを確認する。
2 被告□□は、原告に対し、金190万円290円並びに平成16年3月17日から本判決確定の日まで毎月17日限り、1ヶ月金19万29円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告国立情報学研究所非常勤職員組合の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、原告と被告との間においては全部被告の負担とし、原告国立情報学研究所非常勤職員組合と被告の間においては、被告に生じた費用の3分の1を原告国立情報学研究所非常勤職員組合の負担とし、その余を各自の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が金500万円の担当を供にするときは、上記仮執行を免れることができる。
判決理由概要一部抜粋
思うに、非常勤職員と言っても、任用更新の機会の度に更新の途を選ぶに当たっては、その職場に対する愛着というものがあるはずであり、それは、更新を重ねるごとにましていくことも稀でなはいところある。任命権者としては、そのような愛着を職場での資源として取り入れ、もってその活性化に資するように心がけることが、とりわけ日本の職場において重要であって、それは、民間の企業社会であろうと公法上の任用関係であろうと変わらないものと思われる。また、非常勤職員に対する任用更新の当否ないし担当業務の外注化の当否については方針もあろうが、任用を打ち切られた職員にとっては、明日からの生活があるのであって、道具を取り替えるのとは訳が違うのである。これを本件についてみるに、国立情報学研究所においては、原告ら非常勤職員に対して冷淡すぎたのではないかと感じられるところである。永年勤めた職員に対して任用を打ち切るのであれば、適正な手続きを試み、相応の礼を尽くすべきものと、思料する次第である。本件任用更新拒絶は、著しく正義に反し社会通念上是認しえないというべきであって、---特段の事情が認められる場合に該当するものと思料する。よって、任命権者たる国情研所長が原告に対して、平成15年4月1日以降の任用更新を拒絶することは、信義則に反し、許されないものといわなければならない。
前記大阪大学図書館事務補佐員再任用拒絶事件の事案と本件を比較してみても、本件に前記事件の最高裁判決の言う「特別の事情が」を認める余地がないことは明らかであるとする。しかし、前記の事案は、日々雇用職員で4月1日から翌年3月30日まで任用予定期間とし、3月31日には公務員たる身分を保有してないことから任用の「更新」といえるか、厳密にいえば微妙な事案であり、採用から3年度目の任用予定期間の満了をもって再任用されなかったという事案であって、本件原告のように、任用更新が13回に及び、その結果通算して13年11ヶ月にわたって非常勤職員の身分を継続して保有していた事案とは異なるものである。
したがって、最高裁判決が、当該事案の事実関係の下においてはそのような「特別の事情」があるということができないと判示したとしても、本件は事案をことにするものであるから、同一には考えられない。
弁護団声明−2006年3月30日
国立情報学研究所非常勤職員雇い止め事件原告弁護団
1.平成18年3月24日は、非常勤公務員労働者の権利闘争史上、銘記さるべき日となるであろう。この日、東京地方裁判所民事第36部は、非常勤公務員に対する再任用拒否(雇い止め)を権利濫用として認めず、原告の労働契約上の地位を確認する画期的な判決を下した。非常勤公務員は、国・地方を問わず、いまや、正規公務員と同じく恒常的な業務を担う職場に必要不可欠な存在となっている。それにもかかわらず、勤務期間が有期(日々雇用ないしは1年)というだけで正当な理由もないままに雇い止め(解雇)され、紙屑のように捨てられてきた。正規公務員が公務員法によって身分が守られているのに対し、非常勤公務員は身分保障が認められず、不安定だといわれる民間の期限付き労働者(パート・派遣など)と比べても更に脆弱な立場におかれてきた。数多くの非常勤公務員がその理由を告げられることなく雇い止めされ、泣き寝入りを強いられてきた。しかし、そのような中でも「理不尽な更新拒否はどうしても許せない」という労働者が、数は少ないものの全国で闘いに立ち上がり裁判に訴えてきた。ところが、裁判所は「非常勤公務員も公法上の任用関係であるから、使用する者に広範な裁量権がある」として悉くその訴えを退け、本人、支援者、弁護団は悔しい思いを味わいつづけてきた。それでも、「理不尽なことは理不尽であるから、たとえ裁判で敗けても敗けても勝つまで闘おう」との合言葉のもとに闘いは続いてきた。本件はその一つである。そして、今回、わが国ではじめての地位確認の判決を勝ちとることができた。長年の闘いの積み重ねが、ついに、本判決をして厚かった法の壁の一角を崩させた。本判決は不安定な地位に苦しみ不安を抱いている非常勤公務員労働者に対し大きな励ましを与えるとともに、本件に続く闘いの道標となるものである。
2.本件の判決理由は、次のとおり、きわめて明晰である。
判決は、まず第1に、権利濫用禁止法理は「一般的に妥当する法理」であり、信義則の法理とともに公法上の法律関係にも適用される「普遍的法原理」であると判示する。そして、任期付公務員についても、「特段の事情が認められる場合」には権利濫用禁止法理ないし信義則の法理が妥当し、任命権者は任用更新を拒絶できないと判示する。そして、判決は、特段の事情が認められる場合として3つの場合をあげる。すなわち、任命権者が、期間満了後の任用継続を確約ないし保障するなど任用継続を期待させる行為をしたにもかかわらず、任用更新をしない理由に合理性を欠く場合、任命権者が不当・違法な目的をもって任用更新を拒絶するなど、その裁量権の範囲をこえまたはその濫用があった場合、その他、任期付きで任用された公務員に対する任用更新の拒絶が著しく正義に反し社会通念上是認しえない場合である。
そして、判決は第2に、以上を踏まえて本件の具体的な事実関係を検討し、上記特段の事情が認められる場合に該当するとして任用更新拒絶は信義則に反し許されないと判示した。注目すべきは、判決の次の記述である。
「思うに、非常勤職員といっても、任用更新の機会の度に更新の途を選ぶに当たっては、その職場に対する愛着というものがあるはずであり、それは更新を重ねるごとに増していくことも稀ではないところである。任命権者としては、そのような愛着を職場での資源として取り入れ、もってその活性化に資するよう心がけることが、とりわけ日本の職場において重要であって、それは民間の企業社会であろうと公法上の任用関係であろうと変わらないものと思われる。また、非常勤職員に対する任用更新の当否ないし担当業務の外注化の当否については方針もあろうが、任用を打ち切られた職員にとっては、明日からの生活があるのであって、道具を取り替えるのとは訳が違うのである。これを本件について見るに、国立情報学研究所においては、原告ら非常勤職員に対して冷淡に過ぎたのではないかと感じられるところである。永年勤めた職員に対して任用を打ち切るのであれば、適正な手続きを践み、相応の礼を尽くすべきものと思料する次第である。」非常勤公務員の思いを受け止めた、まさに「人間の血が通った」判決である。
3.本件判決における上記第1の「任用更新を拒絶できない特段の事情」の判断は、今後の同種事案において、大いに活用できると思われる。また第2の判断は、非常勤公務労働者に大きな励ましを与えるものである。いずれの点からも本件は画期的な判決である。この判決を次の闘いへの道標とし、本件の闘いを更に進め、東京高裁でも引き続き勝訴するために全力を尽くすとともに、各地で取り組まれている非常勤公務員の権利闘争が連携しあって法の厚い壁を崩し新たな地平を切り開くことを期待するものである。
以 上