保護者が働いているかどうかにかかわらず、ゼロ歳児から就学前の子どもを対象に教育・保育を一体的に行うとする「認定こども園」法案が二十八日の衆院文部科学委員会で自民、公明、民主の賛成多数で可決しました。日本共産党と社民党は反対しました。
日本共産党の石井郁子議員は、施設整備や職員配置、教育・保育内容などについて都道府県が法的拘束力がない国の基準を「参酌」し条例で定める点について、「国の基準以下で条例が制定される可能性があり、現状の保育環境や水準の低下、地方格差を招くものだ」と反対理由をのべました。
2006年4月24日(月)「しんぶん赤旗」より転載
「認定こども園」法案(就学前の子どもに関する教育・保育等の総合的な提供の推進に関する法律案)が国会で審議されています。
「保護者が働いている、いないにかかわらず入所できる」「待機児童解消につながる」などの声もあります。しかし、法案には保育制度の根幹にかかわる大きな問題が含まれています。
いま、就学前の子どもたちが通う施設には幼稚園と保育所があります。認可保育所は児童福祉法にもとづく児童福祉施設であり、幼稚園は学校教育法にもとづく教育施設です。これに新たな「サービス提供の枠組み」としてつくられようとしているのが、「認定こども園」です。
この「認定こども園」は、「教育・保育を一体的に提供する」「子育て支援をおこなう」という二つの機能を備える施設とされています。これを都道府県知事が認定するという仕組みです。
具体的な施設の形は四つあります。(1)幼稚園と保育所が連携した施設(2)幼稚園に保育所の機能をプラスした施設(3)保育所に幼稚園の機能をプラスした施設(4)東京の認証保育所など、地方が独自の基準でおこなってきた地方裁量型の施設―です。
政府は当面一千カ所程度を見込んでおり、十月一日施行を予定しています。
現在、認可保育所への入所と保育料は市町村が決めています。保育料は、国の基準にもとづいて市町村が設定、徴収しています。保護者の所得に応じた保育料です(応能負担)。
これまで保育所入所の場合は、保護者が市町村に申し込みをしていたのが、「認定こども園」の入所は、希望する施設に直接申し込み、契約する形になるのです。
保育料も施設の自由設定になります。保育時間や利用する教育・保育内容などの「サービス」に応じて料金を払うことになります(応益負担)。
入所を希望しても、「保育料をどれだけ払えるか」が基準となり、保育料によって入所を考える事態も生まれてくることが予想されます。
待機児童解消に役立つのかどうかも疑問です。「積極的に施設の新設を意図するものではない」とされています。現在、待機児童の多くは離乳食を必要とする〇―二歳児ですが、調理室の設置が「望ましい」程度では対応もできません(総合施設モデル事業評価委員会の「最終まとめ」、二〇〇六年三月)。
保育内容や施設の条件はどうでしょう。
法案は、幼稚園を所管している文部科学大臣と保育所を所管している厚生労働大臣が定める基準(指針)を「参酌」して、都道府県知事が条例で定めるとしています。
「参酌」とは、「いろいろな事情、条件等を考慮して参照して判断する」(四月十四日。衆院文部科学委員会)ということです。現在の「最低基準」のように、この基準を満たすべきという義務づけではありません。
しかも、法律成立後に作成する「指針」のもととなる文書(モデル事業評価委員会「最終まとめ」)は、調理室の設置以外の基準についても、「保育所と同様の職員配置が望ましい」「〇―二歳児については、保育士資格を有する者が望ましい」と明確な基準や規制がありません。
国基準以下の施設でもよいという政府の立場は、四つ目の形に、東京都の認証保育所を例に地方裁量型を組み込んだことにも示されています。
東京の認証保育所は、国基準では大都市での設置が困難などを理由に、都独自の基準を設定しています。日本共産党都議団実態調査(〇二年)でも、都の調査(〇四年)でも、保育料の高さとともに、施設の狭さや園庭がないなどの問題が浮き彫りになっています。
現在の保育所の「最低基準」は、保育現場の実態からかけはなれ、国際的にみても不十分です。政府が、その水準さえも、「認定こども園」制度の導入でさらに引き下げようとしていることは重大な問題です。
(国民運動委員会・大田みどり)
2006年4月25日(火)「しんぶん赤旗」より転載
政府はいま、なぜ「認定こども園」という新たな制度をつくろうとしているのでしょうか。
「認定こども園」は、政府の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針二〇〇三」(二〇〇三年六月)、「規制改革・民間開放推進三カ年計画」(二〇〇四年三月)に位置づけられたものです。財界のすすめる規制緩和、民間参入の大きな流れの一つとして、保育所への国や自治体の責任を縮小し、民間企業のもうけのための場にするという思惑が大きく働いています。
財界は、保育分野への企業参入と事業拡大を阻害しているのが、国と自治体が責任をもつ保育制度にあるとして民間開放、規制緩和を強力に要求してきました。
日本経済団体連合会は、「保育サービス提供者の間の競争を阻害している要因を除去し、競争メカニズムを機能させることが不可欠」であるとして、「現在の認可保育所制度をゼロベースで見直し」「利用者が保育施設を自由に選択し契約を結ぶことのできる『直接契約方式』を導入すべきである」(二〇〇三年)などを主張してきました。
政府は、三月末の閣議で、「認定こども園」での保護者と施設の「直接契約」、サービスに応じて施設が自由に設定する保育料の実施状況などをふまえ、認可保育所への導入を検討することを決めています。
政府は、保育制度にたいする財界のこの要求を、「認定こども園」を足がかりに一気に進めようとしているのです。
また、背景には、一九九〇年代後半以後、規制緩和を次々とすすめてきたにもかかわらず、「新規参入はあまりかんばしく」ない(内閣府「保育サービス価格に関する研究会」報告書、二〇〇三年)、という現実もみえてきます。
保育制度をすべて民間にゆだね、もうけの対象になったら、どうなるでしょうか。
小泉内閣が「待機児童解消」などをかかげながらすすめてきた公立保育所の民営化、保育所の設置・運営への企業参入の現実のなかで明らかになっています。
株式会社が事業拡大になると思えば保育分野に参入し、もうけがでなければ撤退、そんな事態が各地ですすんでいます。「企業が経営する保育所が突然廃園」(神戸)、「サラ金の子会社が認証保育所を開設したものの採算がとれずに撤退」(東京)など、保育への責任放棄が平然とおこなわれているのです。
それは、アメリカの保育事情を見ても明らかです。アメリカでは、全国的な最低基準や公費負担制度もありません。圧倒的に企業か非営利法人が運営しています。最低基準は州ごと、入所は保育所と保護者との直接契約、保育料はサービスに応じた自由設定となっています。
結果は、高い保育料を払えば質の高い保育、保育料が低ければ質の低い保育しか受けられない状況になっています。子どもたちが受ける保育の質が保護者の収入によって違ってくる格差がうまれているのです(保育行財政研究会編著『市場化と保育所の未来―保育制度改革どこが問題か』参照)。
「認定こども園」の導入は、「保育料が自由設定になれば、家庭が払えるお金によって、子どもが受けられる保育に格差が生じかねない」(「保育園を考える親の会」代表普光院亜紀、「読売」二月六日付)という不安を現実のものにする危険性をはらんでいます。
「就学前の教育・保育を一体として捉え、一貫して提供する新たな枠組み」という名目で、国民の願いとは逆に、保育所をもうけの場にするという財界の要求実現の足がかりにすることなど、到底許せるものではありません。
(党女性委員会事務局 坂下久美子)